【曼荼羅とマリア】東寺・両界曼荼羅の謎⑥
◆女王の帰還
しかし、
バラモン教がインダス由来の土着信仰を取り入れ
ヒンドゥー教に変化すると、
古層の地母神信仰(女性原理)が再び息を吹き返すのである。
◆シャクテイ信仰
シャクテイとは
「生命を生み出す大地」のアナロジーから生まれた概念で
地母神のもつ強力な生殖力・性力を意味する。
「男性原理を活性化あるいは生み出す」原理
と考えられた。
インドの神々も
シャクテイ信仰の影響を受け、
インド古来の地母神があてがわれ、
男女一対神の形態をとるようになり、
偶像にもその影響が見られるようになる。
たとえば、「ヴィシュヴァルーパ・ヴィシュヌ」像などである。
※ネパール・チャング・ナラヤン寺 宮地「仏像学入門」より
直立不動の宇宙を体現するヴィシュヌを地母神プリティヴィが支え、
ヴィシュヌの支配者としての保証を与えているのである。
仏教の説話に「降魔成道」という説話がある。
ブッダが修行中に悪魔が現れ、
悪魔は、修行中のブッダを邪魔するために
「お前は悟りをひらいたというが、それを一体だれが証明するのか」
と尋ねた。
ブッタは、そっと大地に手を触れ(触地印を結び)、
地天女を召喚した。
※地天女=ヒンドゥー教がのプリティヴィに相当
それを見た悪魔は納得し、姿を消す
この説話は仏像のモチーフとなり、
「降魔釈迦像」
として現される。
※降魔成道 宮地「仏像学入門」より
ブッダは地天女により精神世界の支配者としての保証を与えられるのである。
ここには、
「王権・支配権を付与するあるいは裏書する」
地母神(女性原理)の機能を見て取ることができる。
※東寺の国宝・兜跋毘沙門天。毘沙門天を地天女が支えるが、これも「降魔成道像」と同じく、力や正当性を女神が裏書きしていることを意味している。直立姿勢は「ヴィシュヴァルーパ・ヴィシュヌ」と同じく宇宙軸を示す。なお、兜跋毘沙門天がオリエント風のマントを着ているのは、この像がイラン系部族の国で作られ始めたからである。
http://dsr.nii.ac.jp/narratives/discovery/07/
◆オリエントの地母神信仰
ヒンドゥー時代に復活した
インド古来の女性原理には、
・男性原理を完成させる、
あるいは
・王権・支配力を付与する機能があり、
メソポタミアにおける女性原理と同じである。
ここで「桃太郎の母」の記載を引用しよう。
「(シャクテイ信仰)は、大母神による性的二元論の統一というべき信仰であって、永遠に生殖する女性エネルギーたるシャクティ(性力)を擬人化した大母神が永遠の男性原理たるプルジャと和合して、神々を含む全宇宙を生み出すという思想を基礎に持つ。この母神はその最高の形態において、シヴァの妻と同一視されるが、彼女はまたシヴァをも生み出した母神であり、彼の上位に位置する。」
「この思想の根底に横たわるものは、決してアーリア的ではない。先アーリア期のインド基層文化に属する原始母神信仰がヴェーダやウッパニシャッドの男性優位の教義に反逆して、…顕現したものであり、その基調を為す原始母神の観念が≪インドそれ自体と同じ古さを持つことはすでに学者の指摘したところである。」
「しかも、このような原始母神の信仰はひとりインドにとどまらず、…西南アジアから東地中海にわたる古代オリエントの文化圏に広く見受けられるものである。原始地母神が自らの生み出した男性神を配偶者として従属せしめるというシャークティズムに含まれる根本思想もまた、小アジアから東地中海沿岸一帯をめぐる古代の信仰のうちに見いだされる。」
このようにインドのシャクテイ信仰もまた
次回は、シャクテイ信仰の発展形態のタントリズムについてみてみよう。