京都痕跡町歩き

街角にひそむ歴史の痕跡を探して

【曼荼羅とマリア】東寺・両界曼荼羅の謎⑦

シャクティ信仰とタントラ

 

ヒンドゥー教シャクティ信仰は新たな展開を見せる。

 

古来よりインドには

 

肉体と精神との調和を目的とした

 

独特な人体生理学に基づく身体技法(ヨガ)があったが、

 

※具体的には「呼吸抑制」と「イメージ操作」などで、仏教の「修行」もヨガの一種である。

 

 

ヨガシャクティ信仰

 

さらにはヴェーダの呪術が結びつき

 

肉体的・精神的感覚をコントロールする

 

実践的な教義タントリズムが登場するのである。

 

タントリズム

 

呪術的な力を持つとされる聖句(マントラ)を唱えつつ

 

絶対者・最高神との合一を目指し、

 

ヨガを伴う秘密の儀礼を行うもので

 

より高次の存在様式への昇華をめざした。

 

秘密の儀礼には既成概念を打破して精神を開放

 

宗教的自由(解脱)の境地を目指す意味がある。

 

※「●●しなければならない」から「●●しなくてもいい」「▲▲してはならない」から「▲▲してもいい」に切り替わる瞬間の何とも言えない解放感と後ろめたさの倒錯は誰しも経験があるだろう。

 

既成概念の打破の手段として、

 

「死体・経血との接触」や「肉食と乱交」など

 

非日常的行為を実践する一派もあり、

 

性的行為「実践」する宗派は「左道」とよばれた。 

エロティシズム (ちくま学芸文庫)

エロティシズム (ちくま学芸文庫)

 

  ※バタイユの「エロティシズム」を思わせる。「エロティシズムの本質は性の快楽と禁止との錯綜した結合の中に与えられている。」

 

一方、

 

性的行為はあくまで「観想」の内で行う宗派は「右道」とよばれた。

 

いずれにせよ

 

地母神(女性原理)の性力を体内で活性化させること」

 

を目的にしたのである。

 

初期仏教

 

「寂静」を目指してヨガを実践したのに対し、

 

ヒンドゥー教のタントラ

 

「絶頂」を目指してヨガを実践したことは

 

好対照をみせるのである。

 

◆タントラと密教

 

ヒンドゥー時代で発展したタントラは

 

ヒンドゥー教の模倣戦略をとっていた仏教にも取り入れられ、

 

密教の中で発展していく。

 

ヒンドゥータントリズム仏教タントリズムの相互関係には諸説あるが、

ほぼ同内容の思想を共有している。

 

こうして、

 

密教の中に潜りこんだ

 

オリエント地母神信仰(シャクティ信仰)が

 

やがて中国へそして日本へやってくるのである。

【曼荼羅とマリア】東寺・両界曼荼羅の謎⑥

◆女王の帰還

 

インダス文明では地母神が崇拝の対象であったが、

 

ヴェーダ時代になると地母神は表舞台から消える。

 

しかし、

 

バラモン教がインダス由来の土着信仰を取り入れ

 

ヒンドゥー教に変化すると、

 

古層の地母神信仰(女性原理)が再び息を吹き返すのである。

 

◆シャクテイ信仰

 

この地母神信仰の中心となるのがシャクティである。

 

シャクテイとは

 

「生命を生み出す大地」のアナロジーから生まれた概念で

 

地母神のもつ強力な生殖力・性力を意味する。

 

シャクティ

 

「男性原理を活性化あるいは生み出す」原理

 

と考えられた。

 

インドの神々も

 

シャクテイ信仰の影響を受け、

 

ヴェーダ時代の男神あるいはシヴァ・ヴィシュヌに

 

インド古来の地母神があてがわれ、

 

男女一対神の形態をとるようになり、

 

偶像にもその影響が見られるようになる。

 

たとえば、「ヴィシュヌを支えるプリティヴィ」像などである。

 

直立不動の宇宙を体現するヴィシュヌを地母神プリティヴィが支え

 

ヴィシュヌの力を裏書きしているのである。

 

この影響はヒンドゥー教の神々を取り入れていた仏教にも及ぶ。

 

仏教の説話に「降魔成道」という説話がある。

 

 

ブッダが修行中に悪魔が現れ、

 

悪魔は、修行中のブッダを邪魔するために

 

「お前は悟りをひらいたというが、それを一体だれが証明するのか」

 

と尋ねた。

 

ブッタは、そっと大地に手を触れ(触地印を結び)、

 

地天女を召喚した。

※地天女=ヒンドゥー教がのプリティヴィに相当

 

それを見た悪魔は納得し、姿を消す

 

 

この説話は仏像のモチーフとなり、

 

「触地印を結ぶブッダとそれを下から支える地天女像」

 

として現される。

 

ここには、

 

メソポタミア地母神と同じく

 

「王権・正当性を付与するあるいは裏書する」地母神(女性原理)が

 

見え隠れしている。

 

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※東寺の国宝・兜跋毘沙門天毘沙門天を地天女が支えるが、これも「降魔成道像」と同じく、力や正当性を女神が裏書きしていることを意味している。直立姿勢は「ヴィシュヌをささえるプリティヴィ」と同じく宇宙軸を示す。なお、兜跋毘沙門天がオリエント風のマントを着ているのは、この像がイラン系部族の国で作られ始めたからである。

http://dsr.nii.ac.jp/narratives/discovery/07/

仏像学入門 〈増補版〉: ほとけたちのルーツを探る

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  ◆オリエントの地母神信仰

 

ヒンドゥー時代に復活した

 

インド古来の女性原理には、

 

男性原理を完成させる、

 

あるいは

 

王権・正当性を付与する機能があり

 

メソポタミアにおける女性原理と同じである。

 

ここで「桃太郎の母」の記載を引用しよう。

 

「(シャクテイ信仰)は、大母神による性的二元論の統一というべき信仰であって、永遠に生殖する女性エネルギーたるシャクティ(性力)を擬人化した大母神が永遠の男性原理たるプルジャと和合して、神々を含む全宇宙を生み出すという思想を基礎に持つ。この母神はその最高の形態において、シヴァの妻と同一視されるが、彼女はまたシヴァをも生み出した母神であり、彼の上位に位置する。」

 

「この思想の根底に横たわるものは、決してアーリア的ではない。先アーリア期のインド基層文化に属する原始母神信仰がヴェーダやウッパニシャッドの男性優位の教義に反逆して、…顕現したものであり、その基調を為す原始母神の観念が≪インドそれ自体と同じ古さを持つことはすでに学者の指摘したところである。」

 

「しかも、このような原始母神の信仰はひとりインドにとどまらず、…西南アジアから東地中海にわたる古代オリエントの文化圏に広く見受けられるものである。原始地母神自らの生み出した男性神を配偶者として従属せしめるというシャークティズムに含まれる根本思想もまた、小アジアから東地中海沿岸一帯をめぐる古代の信仰のうちに見いだされる。

 

新訂版 桃太郎の母 (講談社学術文庫)

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 このようにインドのシャクテイ信仰もまた

 

古代オリエント地母神信仰のひとつの表れなのである。

 

次回は、シャクテイ信仰の発展形態のタントリズムについてみてみよう。

【曼荼羅とマリア】東寺・両界曼荼羅の謎⑤

BC1500年頃にインド亜大陸に侵入したアーリア人

 

インダス川の流域とガンジス川の流域をたどりながら

 

約1000年かけて

 

インド亜大陸を横断してインドの東海岸に到達する。

 

その中で

 

遊牧民族であったアーリア人

 

農業を覚える者や

 

ベナレスのような大都で

 

都市生活を始める者も出てきた。

 

生活の余裕は彼らに思索の時間を与え、

 

死後の世界、霊魂について考えるようになってきた。

 

ヴェーダに代わる新宗教の胎動である。

 

仏教ヒンドゥー教の攻防史

 

どんなに優れた教義をもった宗教でも、

 

お金がなければ存在できない。

  

宗教史を見る際には、

 

ビジネス的な視点に立つと見通しがきく。

 

つまり、

 

・市場の質と量を分析し、

 

・どの需要者層にマーケティングすることが

 

・利益の最大化につながるか

 

という視点である。

 

宗教の場合には、

 

大きな資産をもつが少数の需要者のために教義を提供し、お布施をえるのか

 

あるいは

 

小さな資産しかもたないが多数の需要者のために供犠を提供し、お布施をえるのか

 

というビジネス戦略である。

 

こういった視点にたち、

 

ヒンドゥ教と仏教の攻防の歴史を見てみよう。

 

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 立川武蔵「弥勒のきた道」より。分かりやすい♪

 

仏教の誕生と発展

 

BC500年以降

 

王侯貴族勢力が次第に大きくなりはじめ、

 

バラモン中心のバラモン教に反感をもつ王侯貴族も増え始める。

 

その受け皿となったのが、新宗教仏教である。

 

仏教

 

資力を有する王侯貴族をパトロンとして

 

勢力を拡大に成功するのである。

 

さらに

 

海洋交易で資財を蓄えた商人パトロンに取り込む。

 

つまり、

 

お布施の大きいほど御利益があるというロジックを駆使して

 

大きな資力を持つ少数の貴族・商人

 

メインターゲットにしたのである。

 

※出家者の生活を守ることが在家信者の務めとされ、布施の功徳の大きさが強調された。わが国の「旦那」や「檀家」は、インドのダーナ(布施)に由来し、英語の「ドナー」と同じ語源である。

 

バラモン教の反転攻勢

 

仏教の拡大に伴い勢力を縮小していた

 

バラモン教は一計を案じる。

 

資力は少ないが数の多い農民層を取り込めば、

 

仏教に対抗できるのではないかと・・・

 

そこで、

 

バラモン教の教義は維持しつつも

 

インダス文明の頃から農民が信仰している土着宗教を取り入れた

 

ヒンドゥ教という新たな宗教を誕生させるのである。

 

誇り高いバラモンにとっては苦渋の選択であっただろう。

 

この戦略は成功し、ヒンドゥ教は大きな勢力となる。

 

仏教が手を付けていなかった農民という巨大市場を独占したのである。

 

仏教側の応戦

 

この状況に仏教側も手をこまねいていたわけではない。

 

初期仏教とは根本的に異なる

 

大乗仏教を興し、

 

農民層の取り込みをはかるのである。

 

大乗仏教は、

 

ヒンドゥ教の教義の他に

 

海洋交易やイラン系部族の侵入によってもたらされた

 

西方由来の教義をも取り入れ、

 

一般人にも受け入れられやすい

 

救済型宗教に舵をきるのである。

 

仏教の敗北

 

ヒンドゥ教が勢力を拡大を続けていたが、

 

それでも仏教勢力は維持されていた。

 

それは仏教の最大のパトロンのインド商人が大儲けしていたからである。

 

2・3世紀、西にローマ帝国という巨大な経済圏が登場し、

 

ローマとの海洋交易でインド商人が巨万の富を得ていた。

 

インドからローマへは

 

胡椒、宝石、象牙、綿布、愛玩動物ラピスラズリが輸出された。

 

ローマ帝国内ではインド産の物資が原価の10倍で取引され、

 

貿易収支はローマが赤字で、

 

赤字を補てんするために

 

大量のローマンコイン(金貨等)が

 

ローマからインドへ流出した。

 

※沖縄からもインドとローマの海上交易が活発だった頃のローマンコインが発掘されたという。インド商人の手を経てはるばる沖縄にたどり着いたものかもしれない。

沖縄の遺跡から古代ローマの硬貨 :日本経済新聞

 

 

しかし、

 

6世紀に西ローマ帝国が滅ぶと、

 

インド商人も没落し、

 

それとともに仏教の衰退が決定的になる。

 

逆に

 

商人の没落により、相対的に農民の地位があがり、

 

ヒンドゥ教の勢力拡大は決定的になる。

 

また、

 

仏教が延命のために

 

ヒンドゥ教の教義を積極的に取り込んだことも致命的だった。

 

仏教もヒンドゥ教の一部であるとのイメージが広まり

(ブッダはヴィシュヌの一形態など)、

 

仏教はヒンドゥ教に飲み込まれてしまうのである。

 

単純な模倣戦略や

 

資産家をメインターゲットとした戦略など

 

仏教が犯した失敗から学ぶことは多い。

 

次回は、仏教とヒンドゥ教の隆盛の中で

 

女性原理はどのように変化したのかを見てみたい。

 

弥勒の来た道 (NHKブックス)

弥勒の来た道 (NHKブックス)

 

 

 

世界の歴史(3)古代インドの文明と社会
 

 

 【追記】

大乗仏教と西方の宗教

 

初期仏教大乗仏教は根本的に異なる。初期仏教が修行により解脱する宗教であるのに対して大乗仏教は大いなる力に救済を求める宗教である。このような根本的に異なる教義がゼロから生まれたとは考えにくく、他の宗教からの影響があるのではないかとの推測がなされる。西方の宗教由来が疑われるのは下記のとおり。

 

●弥勒信仰とミトラ教との関連性

 

観音菩薩とオリエントのイナンナとアナーヒターとの関連性

 

ゾロアスター教の光明信仰と阿弥陀仏との関連性

南無阿弥陀仏は、「南無」が「name」に通じ神の名前を呼び帰依することを、

阿弥陀」が「un(否)/meter(計る)」に通じ、測ることができないほどの無限の光

を意味し、アフラマズダを賞揚する光明信仰に通ずるとの見解

 

キリスト教との関連性

大乗仏教キリスト教が相互に影響を与えたのではないかとの見解

大乗仏教が興った時期とトマス派キリスト教がインドで勢力を拡大した時期が一致

キリスト教の救済思想と法華経の「一乗妙法」「菩薩行道」が思想的に一致すること

・トマスの福音書と仏典の文言の共通性(「変成男子」や「光と命」) 

〔論文〕「大乗仏教の誕生とキリスト教」参照

http://jairo.nii.ac.jp/0025/00009856

 

有力な反対説があったり、不明確な点が多い分野であるが、

 

ロマンのある話だ。

 

 

※聖トマス:12使徒の1人。イエスの死を傷口に手を差し込んで確認するまで信じなかったことから「疑い深いトマス」として知られる。トマスはインドまで布教に赴きインドで死んだとされる。トマス派キリスト教は現在もインドで信仰されている。トマスの福音書グノーシス主義外典として知られる。トマスが死んだ港町は「サン・トマ(聖トマスの意)」と呼ばれ、そこから輸出された縞織物は江戸時代の日本にももたらされ「桟留(サントメ)縞」とよばれた。

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桟留縞

【曼荼羅とマリア】東寺・両界曼荼羅の謎④

 

バラモン教では、女性原理と男性原理はどのような関係であったか

 

ヴェーダの神々

  

バラモン教ヴェーダの神々で有名なのが、

 

ディーヴァ・インドラ・ミトラヴァルナ・アシュラ・アグニである。

 

これらは共住時代からアーリア人が信仰していた古の神々で、

 

いずれも男神である。

 

※共住時代の最高神は太陽神のアシュラだったようだ。イラン系アーリア人は、アシュラをゾロアスター教の主神アフラ・マズダとして信仰する(アシュラ=アフラ)。一方、インド系アーリア人は対抗意識からアシュラを魔人に貶め、インドラを主神に据える。インド系アーリア人はプライドが高いのである。わが国には阿修羅としてやってくる。

 

アーリア人は、男性原理優位の宗教意識を持っていたである。

 

遊牧民族にとって

 

どこへ移動しても頭上にある「天=男性原理」が重要だったのであり、

 

逆に

 

大地との関係は希薄で、

 

「生み出す大地」の象徴である女性原理も重視されなかったのだろう。

 

もちろんヴェーダの中にも女神がいる。

 

水の女サラスヴァティも共住時代からの古い神であるが、

 

ヴェーダでは女神は限られている

 

アーリア人の故郷はステップ地帯に属し乾燥しており、

 

水・河が崇拝の対象になったが、

 

水は女性原理と不可分であるから、

 

女神が例外的に信仰の対象となったのだろう。

 

※サラスヴァティは、仏教に取り入れられ弁財天となる。イラン系アーリア人の間ではアナヒターとして信仰される。一説によるとアナヒターはメソポタミアのイシュタル・イナンナと習合しナナイアあるいはアルドフショーとなり、イラン系部族がインドに持ち込み、観音の原型になったという(岩本裕「観音の表情」)

 

 

 ヴェーダの王の即位儀式

 

ヴェーダでは、通過儀礼・王権授与はどのようになされたのだろうか。

 

ヴェーダには以下のように通過儀礼・即位儀式についての詳しい記載がある。

 

世界宗教史〈2〉石器時代からエレウシスの密儀まで(下) (ちくま学芸文庫)

世界宗教史〈2〉石器時代からエレウシスの密儀まで(下) (ちくま学芸文庫)

 

 

 

王権 (岩波文庫)

王権 (岩波文庫)

 

 

 

【ディークシャー】

 

・ディークシャーは、高次の存在様式に昇華する儀式である。

・儀式を受ける者(供犠執行者)は、神への生贄である。

=世界樹に吊るされ知恵を得たオーディーンを想起

・儀式を受けることは、一度死に二度生まれることである。

・祭司が供犠執行者に水をかける。

=水は「精液」を意味する

・供犠執行者は、特別な納屋に入れられる。

=納屋は「子宮」を意味する

・供犠執行者は白い衣服を着さされる。

=「白い衣服」は羊膜を意味する。

・供犠執行者は納屋から出て、四方に広がる空間の上に立つ

=再生と宇宙の支配を意味する。

  

【ラージャスーヤ】即位儀式

 

王の即位の儀式に先立って、ディークシャーが1年行われる。

1年間のディークシャの中には断食・苦行が含まれる。

=王権授与には苦行(タパス)が必要と考えられたようだ。

 後世の「シヴァとパールヴァティ」の物語にも通ずる。

中心となる儀式は新年に行われる。

=世界の再生・春の訪れを願う豊穣の祭りの側面もある

儀式からは女性が排除される。

=ただし、ヴェーダ時代より後には王妃も参加する事実がある

供犠執行者は宇宙・世界を体現している。

供犠執行者は白い衣服を着る。

司祭が灌頂儀式(頭に水を灌ぐ)と塗油儀式(精製されたバターを流しかける)

=これにより神聖が付与される(聖別)。儀式のクライマックス。

供犠執行者は四方に歩を進め、王座に立ち両腕をあげる。

=四方への歩みは、地上界の支配、王座へ上ることは時間の支配を意味する。x軸・Y軸が空間をz軸が時間を意味するのだろう。供犠執行者は宇宙軸(アクシス・ムンディ)を体現する。王は空間と時間を支配するのである。

 

 

即位儀式にはランクがあり、

 

最高度の儀式になると(お金が掛かる…)

 

アシュヴァメーダという儀式が伴った。

 

 

【アシュヴァメーダ】馬祀祭

 

・新年に行われる儀式

=世界の再生・春の訪れを願う豊穣の祭りの側面もある。

・馬は植物を活性化させる機能がある

=馬は生命力、季節の循環、世界、宇宙を象徴している

・特別に用意された駿馬を一年間放つ

・その馬の行く先が領土となる

=馬は領土を支配する「王の力」「王権」を意味する。

・一年後に馬を連れ帰る

・供犠として多数の獣とともに殺される

・主妃が死んだ馬と添い寝し、性交のまねごとをする。

・そのわきで祭祀と他の王妃は卑猥な冗談を投げかけ合う

・主妃が立ち上がると、馬は解体し、肉は分配される。

※馬の代わりに人が犠牲になる「プルシャメーダ」という儀式もあった。

 

 

メソポタミアとインドの王権授与儀式とを比較すると

 

ディークシャー・ラージャスーヤに関しては

 

・王が一度死に、再生すること(死と再生)、

 

・年初めに儀式が行われ、豊穣の儀式の側面があること

 

・塗油行為を伴うこと、

 

・世界の中心で即位儀式を行うこと

(メソポタミア:ジッグラト・インド:王座)

 

などに共通性が見られる。

 

「豊穣・世界の再生=王の死と再生」

 

という基本構造は共通する。

 

しかし、

 

メソポタミアのように性行為(聖婚)を伴わず、

 

儀式のクライマックスである聖別儀式

 

女性原理は登場しない。

 

また、

 

メソポタミアにおいては、王は地母神の愛人・息子であり、

 

王は地母神に対する生贄になるのに対し、

 

リグ・ヴェーダにおいては、

 

「汝の身体を増大させつつ、汝自らを犠牲にせよ」とあるように、

 

あくまで

 

「自らの自らへの犠牲」(オーディーン箴言)なのである。

 

 

女性原理(地母神)は儀式の中心にないのである。

 

 

アシュヴァメーダに関しては

 

 

・年初の豊穣祭・王の死と再生

 

・聖婚と王権授与

 

・動物供犠

 

・人間の女性と動物遺体との疑似性交など、

 

メソポタミアの聖婚儀式とアシュヴァメーダとの間に共通点もみられる。

 

しかし、

 

女性原理は、

 

王権を王に伝える媒介に過ぎないのであり、

(馬=王権→疑似性交→〔王妃〕→結婚→王)

 

メソポタミアのような

 

王権を授与する女性原理(地母神)」

 

との観念は見受けられない。

 

 

これらの儀式は、

 

おそらくメソポタミアの影響を受けつつ

 

アーリア人独自の

 

男性原理中心思想」や「馬信仰」のもとで発展したのだろう。

 

※宗教学の泰斗エリアーデは「シュヴァメーダは明らかにインド・ヨーロッパ諸民族起源である。」と言い切ってるが…

 

ヴェーダ時代、

 

社会・宗教においては、

 

男性原理が中心であった。

 

 

【追記】

◆獣と女神のモチーフについて

 

アシュヴァメーダには、

 

「王妃が馬の死骸と性交のまねごとをする」

 

というエキセントリックな儀式が含まれているが、

 

女神・王妃と馬・牛との性交をモチーフとする神話・儀式が、

 

その特殊な内容にもかかわらず、

 

北欧、地中海、メソポタミア、インド、中国、日本と広い地域にみられる。

 

具体的に言えば、

 

アイルランドの即位儀式

 (王は雌馬の死骸と性交の儀式を行う)

ギリシャ神話のデメテールの話

 (馬に化けた王妃を馬に化けたポセイドンが犯す話)

ギリシャ神話のミノタウロス神話

 (牛に化けたゼウスが女神を犯し、ミノタウロスが生まれる話)

ギルガメシュ叙事詩の天牛殺の話

・日本神話のスサノオの悪事の話

(馬の死体を女神に投げつけた結果、機織りの器具でホトをついて女神が死ぬ話)

・中国の馬頭娘

・日本の東北地方の巫女に伝承される「オシイラ祭文」(遠野物語)

 

などである。

 

おそらくは、

 

インド・ヨーロッパ語族の中で組み立てられた神話体系が

 

騎馬民族の間で共有され、

 

中国・日本には

 

ユーラシアを東進したスキタイ系騎馬民族が運んできたのだろう。

 

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※林俊雄「スキタイと匈奴・遊牧の文明」より

 

詳しくは下記の文献参照。

 

マハーバーラタの神話学

マハーバーラタの神話学

 

 ※「馬に汚される大女神」参照

 

観音変容譚―仏教神話学〈2〉 (仏教神話学 (2))

観音変容譚―仏教神話学〈2〉 (仏教神話学 (2))

 

 

 ※ユーラシア大陸の諸神話における「馬と女性性」参照

 

インド・ヨーロッパ古代の異類婚姻譚について

https://kdu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=841&item_no=1&page_id=13&block_id=21

 

◆深曽木の儀

男の子が5歳になると行う儀式に

「深曽木の儀」というものがある。

男の子が囲碁盤の上に上り再び飛び降りるというものだ。

これは、囲碁盤を世界に見立て、

四角形の囲碁盤に立つことは「四方(世界)を制す」意味があるという。

※ソースは忘れた…

 

もともとは王の即位儀式であったのだろうか。

 

インドのラージャスーヤを思わせる。

 

大嘗祭の天羽衣

 

大嘗祭は、天皇が行う豊穣の祭りである。

大嘗祭では、天皇は天羽衣という白い衣を着て

湯あみをするという。

羽衣が羊膜、水が羊水を意味し、

儀式は死と再生の疑似行為という(西郷信綱説)。

日本書紀の「真床覆衾」に相当。

これもまたインドのディークシャーに似ている。

起源については今後の宿題…

 

天皇の即位儀礼と神仏

天皇の即位儀礼と神仏

 

 

 

大嘗祭の本義

大嘗祭の本義

 

 

【曼荼羅とマリア】東寺・両界曼荼羅の謎③

では、今度は古代インドにおける女性原理と男性原理を時代別にみてみよう。

 

インダス文明

 

インダス文明の文字の解読が出来ていないため詳しい内容が分からないが、

 

男根崇拝地母神信仰牡牛信仰があったようだ。

 

印章の中には、多くの獣に囲まれ、行者らしき男が

 

男根を屹立させヨガのポースをとるものがあり、

 

今日のヒンドゥー教で男根の形で崇拝され、獣の主、苦行者として崇拝される

 

シヴァ神のプロトタイプと考えられている。

 

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また、地母神をかたどるテラコッタ

 

後の七母神に繋がると思しき七人の女神像も発見されている。 

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 ※モヘンジョダロ出土

 

古いインドの土着宗教を引き継ぐと考えられる南インドの村においては、

 

大体が女神を崇拝していることから(斎藤昭俊「インドの民族宗教」)、

 

インダス文明においても、

 

地母神(女性原理)が大きな役割を果たしていたと考えられる。

 

また、バーレーンディルムンからはインダスの印章が見つかっていることから、

 

メソポタミア文明インダス文明との間に海洋交易が存在していたことが知られる。

 

インダス文明はオリエントの影響を受けつつも

 

独自発展を遂げたのだろう。

 

ディルムンメソポタミアとインドの海洋交易の要衝として栄えた。一説によればギルガメシュ叙事詩エデンの園に比定される。

 

アーリア人流入

 

BC1500年頃

 

東欧あるいはカスピ海周辺に住んでいた遊牧民族

 

インドヨーロッパ語族(アーリア人)

 

食料問題に直面し移動を開始する。

 

西に向かう一派は、

 

ヨーロッパ人の起源となり、

 

東に向かう一派は、

 

イランに入ったイラン系アーリア人

 

インド亜大陸に入ったインド系アーリア人に分かれる。

 

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 ※山崎元一「古代インドの文明と社会」より

 

ヨーロッパ・北欧・イラン・インドの言語、神話

(インド神話ギリシャ神話・北欧神話等)

 

類似性が見られるのは、

 

移動前に共有していた言語・神話を移動後も維持したためである。

 

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※言語的類似性(山崎元一「古代インドの文明と社会」より)

 

さて、インド系アーリア人の動きを追ってみよう

 

アーリア人の宗教のバラモン教聖典

 

リグ・ヴェーダでは、

 

ダーサ(農耕土着民)が立てこもる強固な「プル」(城壁)を

 

最高神インドラ(ギリシャ神話のゼウスに当たる)が

 

チャリオット(戦闘用馬車)に乗りながら

 

チャリオット:映画グラディエーターにも登場する古代戦車。歩兵などは蹴散らされそうだ。

 

ヴァジュラ(雷撃)で打ち砕き、ダーサを支配下に置いた。

 

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※左:ゼウス・中:帝釈天・右:ヴァジュラ(金剛杵) インドラは仏教に取り入れられ帝釈天になる。アーリア人は共住時代から雷神を祭っていた。インドラとゼウスの起源である。ゼウスもインドラ(帝釈天)も雷撃を表すヴァジュラを手にもつ。ムスカ大佐「これから王国の復活を祝って、諸君にラピュタの力を見せてやろうと思ってね…。見せてあげよう、ラピュタの雷を!!旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火だよ!ラーマヤーナではインドラの矢(ヴァジュラのこと)とも伝えているがねッ」

 

とされる。

 

アーリア人は、

 

チャリオットの圧倒的な軍事力で

 

インドの都市を次々に支配下に置いて行ったようだ。

 

リグ・ヴェーダなどの文献からは他に、

 

アーリア人が「白い肌」と「ほりの深い顔」をしていたこと

 

馬と供犠を重んじ、男根信仰・地母神信仰をしていなかったこと

 

・自己の文化に非常に誇りを持ち、インド土着の文化を蔑んだこと

 

・家族は家父長を中心に三世代で構成され、家族が集まってヴィシュ(氏族)、氏族が集まってジャナ(部族)を構成していたこと。

つまり、ピラミッド構造の男性社会

 

・戦車競技・さいころ賭博が大好き

 

・スーラ酒が好き。ソーマ酒という幻覚作用のある酒が大好き

※一説には、ソーマ酒はベニテングダケの一種から作られたとされる。

 

・先住民の女性を奴隷・妾としていたこと

※混血児は家族の構成員・準構成員となった。そのため混血が進んだ。混血児は母親の言葉に影響をうけ、結果、家族全体の言語さらには氏族・部族の言語にも影響を与える。リグ・ヴェーダにもすでに土着言語特有の反舌音の単語が含まれている。

 

・土着民は色が黒く供犠は行わず、男根信仰・地母神信仰を行っていたこと。

 

・土着民の中にはアーリア人から見て非常に裕福な者(パニ)がいたこと

おそらくは、オリエント等の海洋交易を通じて富を蓄えた商人なのだろう。

 

などが分かっている。

 

今でいえば、

 

アーリア人

 

「パチンコ、競輪が大好きな酒飲みで

時には覚せい剤も打つ女好きの好戦的なレイシスト

 

ということになる!?

 

あまり友達になりたくないですね…

 

次回は、ヴェーダからアーリア人の宗教意識を読み取ってみよう。

 

【追記】インドヨーロッパ語族の故郷

 

インドヨーロッパ語族の故郷については諸説ある。比較言語学からはインドヨーロッパ語族に共通する単語を分析することにより、共住時代の居住環境を再現し、インドヨーロッパ語族の故郷を推測するアプローチがとられている。

それによれば、「ブナの木が生え、牛の馬が飼育され、川にはサケやマスが泳ぎ、森には狼や熊が棲息する…」という結論がえられた。

そこから、カスピ海、東欧、北欧等に候補地が絞られるのだという。

 

世界の歴史(3)古代インドの文明と社会
 

 

印欧語の故郷を探る (岩波新書)